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障害者雇用の多くの課題は、テレワークの導入で解決できるー 社会保険労務士法人 東京中央エルファロ共同代表 若林 忠旨様インタビュー

 

プロフィール

若林 忠旨(ワカバヤシ タダシ) 特定社会保険労務士/障がい者雇用アドバイザー
社会保険労務士法人 東京中央エルファロ共同代表
平成19年、社会保険労務士試験合格。平成24年、社会保険労務士法人東京中央エルファロを共同で設立。学校卒業後、社会人として営業、法務、監査、システムなど多岐に渡る業務を担当。平成15年に慢性腎不全になり、人工透析を開始。現在も週3回の透析を受けている。その後、病気になった経験を活かし、社会保険労務士を目指し合格。

労務問題の相談・対策などを得意としており、国内・国外法人などユニオン・訴訟などの相談・コンサルティングを通してアドバイスをしたり、M&AやIPOの労務DDや総売上高から適正人員・適正配置のアドバイザー業務などを中心に業務をおこなう。

最近では自分の障がいやがん患者として過ごした経験を生かした障がい者雇用・がん就労の分野で高度なコンサルティングを続ける一方で、患者会や障がい者団体、病院関係者からのセミナー・執筆にも力を入れている。

 

障害者雇用の問題は、テレワークで解決できる

ー現在の障害者雇用の状況について、簡単に教えていただけますか?

若林:障害者雇用促進法という法律が、平成28年に大きく変わりました。この法律では、一定規模の企業に対して障がい者の雇用率が2.2%と法律で定められており、「社員が45.5人以上の企業は障害者を1人以上雇わなければならない」という決まりです。

また、「障害者雇用納付金」という制度が別にあり、雇用率未達成の場合は不足している人数1人あたり5万円が徴収されます。これは従業員が100人を超える企業が対象なのですが、何年か前は従業員200人、300人超だったのが、とうとう100人までに落ちてきました。次の改正では50人まで落ちるとも言われています。

障害者雇用は一部の大企業や中小企業が社会福祉・CSR の一環として取り組むイメージでしたが、昨今の人不足の影響もあって、戦力として採用しなければやっていけない状況になってきています。

ー現場で起きている障害者雇用の問題点について、代表的なものがあれば、いくつか教えていただきたいのですが。

若林:まず1つめが、一般の会社員のように、普通に出勤して会社から指示された仕事をして普通に帰っていくような障害者についてです。

障害を持っているので、会社が想定しているような普通の社員のような働き方は難しい。例えば人工透析をしている方なら、病院に行くために少し早く退社しなければなりませんから、短期間勤務しかできないことになります。事故で手や足が不自由な方だと、通勤ラッシュの時間に通勤するのは難しい。

身体的な障害だけではなくて、メンタルヘルスの問題もあります。うつ病に罹患した方などは、勤務時間を短時間にするとか、あまりプレッシャーのある仕事を与えないとか。そういった問題が色々出てきます。

ーこういった障害者雇用の問題はテレワークの導入で解決できるのではないかというのが若林さんの見解ですが、具体的にはどのような解決方法があるのでしょうか?

若林:今、障害者を雇うときに一番問題となるのが、どのように会社に来てもらって、どのように働いてもらうかです。

ーまずは「物理的にどうやって会社に来るか」という話だと。

若林:はい。まず、家から会社までどのように来てもらうのか。それから、どれだけ働いてもらうのか。例えばフルタイムで8時間働けるのか、短時間なのか。それから、どんな仕事をしてもらうか。この3つが一番大きな問題になります。

特に前半の2つ。まず、会社にどうやって自宅から来てもらうのか。例えば精神障害の人だと、閉所恐怖症の人は人が多い場所には行けませんから、通勤電車に乗れないという問題が出てきます。車にも乗れない人もいるので、そもそも会社に来られない。

ー移動リスクがある。

若林:それから、通勤時に階段から落ちてしまうなど事故にあうリスクも高くなります。このように、身体障害の人や車椅子の人は「来る」こと自体が大問題です。しかしテレワークで会社に来る必要がなくなれば、1つ大きな問題が解消できます。

もうひとつの問題が勤務時間です。例えば、仕事ができる時間が全体で6時間あったとしても、通勤時間が片道1時間ずつになれば4時間しか働けません。そうなると、4時間しか働けないなら来てもらっても仕方がない、と言われてしまいやすい。

ところが、テレワークなら6時間まるまる使えます。仮に病院に行く必要があって往復時間が1時間取られるとしても、残りの5時間は働けます。それだけでも就労の機会が大きく増えると思っています。

ーそもそも障害者の方は移動のリスクがあるし、移動のために時間をすごく取られていた。一方、会社としては障害者の方を雇用しなければいけないために、今までの仕組みの中で雇用を進めるとお互いに無理が生じていた。

本人の負担も大きいし、会社側としても、障害者の方に対しては大きな配慮が必要になってしまう。現実的には、そのような状況だったということですね。

テレワーク助成金は障害者雇用を加速するか

ー今回、コロナ禍によって全体的にテレワークが推進されるようになりました。テレワークに助成金も出るようになりましたが、そういったところでもテレワークは進めやすいのでしょうか?

若林:はい。例えばパソコンや通信費を会社と社員のどちらかが負担する場合の助成金や奨励金があるなど、テレワークを導入するために国がいろいろな補助を出し始めています。

ーテレワークを推進して対策をしている会社の方が一般的な会社よりも評価されやすいですよね。対策している会社は「障害者に温かい会社」としてCSR的にも評価が高まりそうですが、その辺りについてはいかがですか?

若林:障害者雇用をCSRの一環として捉えている会社は多いです。例えば、自分の会社の障害者ではなくても、「知的障害者の施設にこういった仕事を出しています」とホームページで宣伝している上場企業なんかもたくさんあります。
特に、「優しい社会」「共生社会」が最近では言われるようになりました。このあたりのことも、会社の一つのアピールポイントとして行なうことには十分利点があると思っています。

ー障害者こそテレワークの活用がポイントで、助成金も出るし、企業としては評価も高まる。さらに、障害者自身がより豊かな生活を送ることができて、リスクも抑えられる。いいことばかりだと思います。
具体的に障害者のテレワーク化を実現するとなると、何から始めればいいですか?

若林:まず物理的な問題として、通信環境やセキュリティ上の問題を解決することが大切です。仕事で無料wi-fiなどを使ってもらったら困るとか、会社で保管しているデータをどこまでクラウド化できるかとか。

ーIT、セキュリティの問題があるということですね。

若林:あとは、例えば机とか椅子とか、いわゆる物理的な環境ですね。

ーちなみに、社員が使うデスクなども障害者用のものを揃える必要があるのでしょうか?

若林:障害の部位によっては揃えたりします。例えば、車椅子の方であれば一般の机だと高すぎますので、もう少し幅広の。それから視覚障害の方ですと、パソコンの画面を大きく拡大するための拡大鏡とか。

ー家庭でも同じような環境で仕事ができるように、会社が設備を準備してあげるべきだろうと。

若林:ストレスがあると、そこからまたいろいろな問題に発展する可能性があります。

それから、障害者にテレワークを導入する会社はIT会社を中心に昔からありますが、ここ10年ぐらいは国も補助金を出すケースが多くなっています。しかし1年、2年という短期間で辞められてしまう。ここもひとつ問題です。

統計はありませんが、よく指摘されている要因がコミュニケーションです。「なにかあったら相談できる」という取り組みをしている会社は多いんです。チャットですぐチャットができますとか、何かあったらすぐ電話ができますとか。
ですが、日常的に机を挟んで仕事をするときには、雑談やくだらない話もそれなりに重要ですよね。そこで、常時つながれるネットワークを導入するとか、挨拶など意識して声がけをするとか、こうしたことが対策としてとても重要です。1人で家の中にこもっていると、だんだんメンタルが鬱になってきてしまいますから。

ただ、なかなか忙しくてできないとか、そこまでやれないという会社が多いのも事実です 。

ー就業規則など、法的な整備に関して必要なものはありますか?

若林:障害者を区別して就業規則や賃金規定を作ることは、障害者差別解消法という法律に触れてしまう、少しセンシティブな問題です。

例えばネット通信の費用や光熱費の問題とか、その辺は障害者である・ない関係なく、テレワーク全般で決めておく必要があると思います。

ーその辺りを整備することでこれまで以上にリスクを抑えることができ、かつ雇用された障害者自身もストレスを抑えて仕事ができるようになる。

障害者雇用のテレワーク化で成功した事例

ー実際に、障害者の雇用をテレワークで実現させて成功した事例はありますか?

若林:何件かあります。最近では、経理系の部門を全員在宅勤務にするということで、新たに車椅子の方を2名採用した会社がありました。

採用された方の1人は、40代でバイク事故にあって両足を切断された方です。その方は事故にあう前の会社では22歳で入社されてから10年以上、ずっと経理畑一筋でした。税理士の資格は持っていませんが、所得税とか消費税とか、試験科目のうち3つは合格しているんです。

ーそこまで精通していれば、たいていのことには対応できますね。

若林:その会社では、決算をその人中心で回せるような状況になりそうだということです。

それだけ専門知識を持っていても、車椅子というだけで簡単なバイトしか仕事がない状態でした。そういった人を正社員で雇うことによって、会社にとっても大きなメリットがあります。

ーテレワークなら、近場の人を採用しなくてもいいですからね。

若林:そうですね。先ほど出てきたような、車椅子だとか身体の障害がある人とか、それから地方に在住している障害者は、就職の機会がないだけなんです。中には、社会人経験が何年もあるような方もたくさんいます。

テレワークなら、能力があるのに就労の機会がなかった人たちを採用できる。今はビックチャンスだと思っています。

大変な時期だからこそ、積極的に動いてほしい

ー障害者のテレワーク化を目指す経営者の方も記事を読んでくださっていると思いますが、その方たちにメッセージなどがあれば。

若林:社会経験があって能力も高いのに、障害があるというだけで就労機会に恵まれない方も多いですから、今後は逆に採用できるチャンスが生まれてくると思います。

積極的に情報を集めて、相談も含めて多方面に動いていってもらうには今はとてもいい時期です。お金の面でも条件面でも、テレワークを歓迎する世間の考え方などとてもいい時期に来ています。大変な時期だからこそ積極的に動いていただきたいと思います。

ーありがとうございます。「新しい生活様式」という政府が提唱する言葉も出てきましたが、これからは、まさにそれに合った新しい働き方になっていくのではないかと思います。

 

今回、インタビューを受けてくださった社会保険労務士法人東京中央エルファロ様では、本記事に関する労務問題、人事問題、障害者雇用やテレワークに関するご相談を受けてくださっています。ご希望の場合は、下記お問い合わせ先まで「LEGALBACKS(リーガルバックス)の記事とみた」とお伝えいただいた上、東京中央エルファロ様(ご担当:若林様)にお問い合わせください。

事務所名 社会保険労務士法人 東京中央エルファロ
代表社会保険労務士 社員 稲村広幸
所在地 〒110-0016東京都台東区台東3-7-8 第7江波戸ビル301号室
電話 03-5812-4245
FAX 03-5812-4246
メールでのお問い合わせ(東京中央エルファロ様公式サイトへ飛びます)

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