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パワハラは、減っていないー 湯澤社会保険労務士事務所 代表・社会保険労務士 湯澤 悟様インタビュー

プロフィール

湯澤 悟(ユザワ サトル) 代表・社会保険労務士
湯澤社会保険労務士事務所 代表 
ミッションは「相手の腑に落ちる言葉で自発的行動を加速させ、成果のプロセスに寄与する」。パワハラ対策においては「誰一人傷付けない。パワハラの加害者も被害者も絶対に作らない。人の命(人命)と、継続企業の会社の命(社命)を守る」。ビジョンは、「社会的意義のある教育を通じて、日本の成長と利益の最大化に貢献する。~言葉の定義を整え、人間関係の“ワクワク感”と“感動体験”を通じて、日本の企業を元気に、そして強くする。」

18年間で延べ17,000件超の人と組織のコミュニケーションエラーを起点とする各種の高難度労務問題を「腑に落ちるアドバイス」で解決に導く。パワーハラスメント対策研修では単なる法律論一辺倒ではなく、双方向コミュニケーションを重視。研修終了後、現場に戻ってすぐに行動に移せる研修で自然に組織が改善されると評価が高い。2014年以降、大手上場企業等を中心に、コンプライアンス、パワハラ対策研修を中心に、登壇回数は570回超、総受講者数38,000人(経営層、管理職層が中心)を超える実績を有する。

 
2020年6月1日に「パワハラ防止法」が施行され、まず大企業を対象にパワハラ防止措置が義務化されました。現時点では中小企業は努力義務とされていますが、2022年4月1日からは中小企業に対してもパワハラ防止措置が義務化されます。

パワハラ防止法に違反すると、企業にどのようなペナルティーがあるのでしょうか?
また、会社からパワハラそのものをなくすために企業が取り組むべきことは何なのでしょうか。
この点について、パワハラ・コンプライアンス対策の専門家であり、2014年以降、38,000人以上にパワハラ・コンプライアンス対策研修を実施してきた湯澤悟社労士にインタビューを実施しました。

パワハラは、減っていない

―パワハラをはじめとした「ハラスメント」が社会問題になって久しいですが、未だに社内のパワハラは多いのでしょうか?セクハラは昔に比べると減ったのではないかと感じていますが。

湯澤:パワハラは依然として起きています。セクハラも、パワハラに隠れていますが、やはり一定数はあります。ただ、新型コロナの影響でリモートワークが増えて飲み会が少なくなったので、セクハラに関しては減っているかもしれません。

―大企業は中小企業に比べると人にも資金にも余裕があるので、研修を定期的に実施したり社内規程を整備したりと、ハラスメント対策についても積極的な姿勢が見られます。しかし中小企業となるとそこまでの余裕がなかなか持てず、全社を挙げてハラスメント対策に取り組むことはあまりできていないように思います。

湯澤:おっしゃるとおりです。研修も、実施している会社は非常に少ないと思います。特に社員数が50人未満の規模になってくると、対策はほとんどとられていないと言っていいでしょう。

特に中小企業の場合、社長がハラスメントをしているケースも多いんです。それに対して部下サイドがなかなか声を上げられない状況が多く見られます。ハラスメントが常態化してしまっていて、社員はその中で我慢をしながら働かざるをえない。そんな会社が多くあるのが実態かもしれません。

パワハラ防止法について

―パワハラ防止法は2020年6月1日に大企業に施行され、2022年4月1日からは中小企業に適用されます。パワハラ防止法では、ハラスメント対策の義務化や、パワハラの相談をした社員に対する不利益取扱の禁止などについて定めています。この法律に違反するとなにか罰則があるのでしょうか?

湯澤:今の時点では行政罰のみで、刑事罰などはありません。ただ、是正や勧告などの行政指導が入ったり、企業名の公表などが行われたりすることがあります。

企業名の公表は、会社にとっては大打撃になると思います。行政が公表しなかったとしても、社員がパワハラの実態をSNSに書き込む可能性もある。あるいは、マスコミにリークしてマスコミが動く可能性もあります。そうなったら、採用にも大きな影響が出るでしょう。

―人が採用できなくなるということですね。確かに、最近では応募する前にどんな会社なのかを調べてくる人が大半です。ネットで調べたときにパワハラの情報が出てきたら、まず応募しようとは思わないでしょうね。

湯澤:その通りです。「パワハラの行為者がいる」として社名を公表されてしまうのは相当致命的ですよ。まず入社しようとは思われないでしょうし、今働いている社員からの信頼も大きく失います。「この会社にいくら訴えてもだめだ、パワハラ対策を何もしてくれない」と失望されてしまうと、信頼を取り戻すのは難しい。結果として、かなりの社員が辞めていくことが考えられます。そうすると、経営が成り立たなくなるおそれすらあります。

コロナを経て価値観が大きく変わった社員も多いはずです。解雇されるかもしれない、コロナに感染してしまうかもしれない。要するに「今まさに自分の命が脅かされている」と痛切に感じる人が増えました。

それに、リモートワークが普及したことで、転職の選択肢も大きく広がりましたよね。言い換えると、会社を辞めやすくなった。パワハラを受けても我慢して会社にしがみつくのではなくて、「やめてくれ」と声を上げてみて、ダメならさっさと退職して違う会社(自分の価値観と合う会社)に行けばいいと考える社員も増えているはずです。

―人が定着しないと、会社は採用や教育にコストをかけ続けなければなりません。パワハラへの対策を怠ることは、会社の経営そのものを揺るがすことにつながりかねないということですね。

パワハラを会社からなくすために、会社は何をするべきか

―パワハラ対策として、一般的には研修を実施することが多いと思います。

湯澤:研修は確かに多く実施されていますし、私も研修講師として、中小企業や大手上場企業を問わず、数多くの会社に関わらせていただいています。

ただ、私のところに相談に来られる方にお話を伺っていると、「そのやり方では効果が殆ど出ないだろう」という研修をしている会社が非常に多いんです(ただし、効果が出ない研修をやっている講師に大きな責任がありますけどね)。典型的な失敗例が、行政が作っている資料と判例の解説を中心においた研修です。社員同士でロールプレイングをして、国が提唱しているパワハラ対策を復唱して終わり。こんな会社は実に多い。

私は基本的にロールプレイングを行いません。何故かといえば、無意味だからです。決まった台本がすでにあって、行為者と被害者に分かれて台本通りに進めていくんですが、現場で起きているパワハラというのはそんな単純なものじゃないんですよ。ロールプレイングを疑問視している人も多いですね。

―単に形式的な対策を行っても、結果にはつながらない。湯澤さんは、パワハラ対策として何が必要だとお考えですか?

湯澤:きれいごとのように聞こえるかもしれませんが、最も重要なのはトップの思考と意識と行動変容です。トップが本気で取り組んでいるかどうか。これが非常に重要です。

それがあって、初めて研修が生きてきます。さらに、実際にハラスメントが起きてしまったときに、ちゃんと社内で相談対応できる窓口があること。これも大きなポイントです。

なぜパワハラは繰り返されるのか

―先ほど、中小企業ではパワハラが常態化しているのではないかという話が出ました。なぜパワハラはなくならないのでしょうか?

湯澤:最も大きな要因は、パワハラをしている人が「自分がパワハラをしている」ということに気がついていないことです。無自覚ですから、研修をしても“ひとごと”としてしか受け止めず、効果が出ないんですね。

パワハラをなくしたいのなら、この無自覚の行為者に「あなた、パワハラをしていますよ」といかに自覚させられるかが非常に大きなポイントです。

―自分のことなのに、自分には関係ないと思ってしまう。

湯澤:そうです。無関心ですから、パワハラに関する知識を入れようともしません。パワハラが何なのかすら知らない、部下が苦しんでいることにも理解を示さない。会社でパワハラが起きていようが自分が加担していようが、全く関心がないんです。さらに、どちらかというと「自分は何もしていない」とすら思っている人が大半です。パワハラをなくすためには、この誤解を正していかなければなりません。

高圧的、威圧的、感情的、攻撃的に部下を追いこんでしまうパワハラは、人の命を奪いかねない危険な行為です。パワハラに関する裁判はたくさんありますが、被害者の方が精神疾患を抱えてしまうケースだけではなく、自殺するケースも多い。

パワハラ問題が放置されると、メンタルヘルス不調につながり得るほか、被害者が休職や退職に至ることもあります。最悪の場合、人命に関わることもある重大な問題なんです。このことは、絶対に肝に銘じるべきです。

―パワハラの行為者に自覚を促す、そのためにも、まずトップが本気になってパワハラに取り組む必要があるということですね。無自覚者に自覚を促すためにはどうすればよいでしょうか?

湯澤:無自覚にパワハラを繰り返す人に対して周りが指摘する方法もありますが、あまり効果がありません。重要なのは、客観的な結果を示すことです。そのために私が使っているのが、管理職教育用 Web適性検査「パワハラ振り返りシート」という検査ツールです。これは有限会社グローイングと弊所の共同開発商品になります。

「パワハラの振り返りシート」は、パワハラをやる可能性が高い管理職者に気づきを与えるツールの1つで、本人が自覚していなかったリスクを数値で可視化し、「そのリスクがパワハラを引き起こす可能性があるよ!」と気づかせることができます。

「パワハラ振り返りシート」は、管理職自身に自らの行動・言動について客観的な視点から振り返りの機会を与え、専門的な知識のある第三者が診断結果を分析し、客観的な立場からパワハラの行為者になるリスクが高いことを指摘するツールですので、無理なく本人に気づかせることができるんです。こうすると、無自覚者も現実を受け入れやすいんですね。

この検査ツールを管理職にひとりひとりに受けていただく。そして、どういう行動特性があるのかを研修の中で個別に解説する。さらに、研修が終わってから「どんなことに意識を向けて自発的行動変容をしていけばいいか」という事後課題を設定して、それに半年くらい取り組んでもらうようにしています。

さらに、そこから半年後に同じ検査を受けていただいて、検査結果がどのように変化したかを可視化していきます。私が研修を担当している多くの会社では、こうして毎年定期的に取り組むことでかなりの成果が上がっています。

パワハラをしている社員を育て直し、真のハイパフォーマーに

湯澤:中小企業の場合は、会社の業績に大きく貢献している、いわゆるエース級の管理職が無自覚でパワハラをしているケースが、実はよく見られます。エネルギッシュで積極性もあって、力強く周りを引っ張っていける人、成果を出している人です。会社としてするべきことは、この管理職を単に罰してパワハラを止めさせることではありません。

パワハラが起きているのは、その管理職が部下マネジメントをちゃんとできていないからであって、言ってしまえば「マネジメントセンスの欠如」なんです。マネジメントセンスがないがためにパワハラをしてしまっている。そこを変えてもらうために、正しい思考と正しい意識を与えて、正しい行動に切り替えてもらわなければなりません。その管理職を「真のハイパフォーマーにする」ことがとても重要です。

単なるパワハラ対策で終わってしまうと、会社として大事なエースを失うことにもつながりかねません。パワハラを放置しても業績は落ちる。しかし、逆にパワハラ対策に取り組んでも業績が落ちるのでは、会社にとってどちらもリスクだということになってしまいます。それでは真のパワハラ対策とは呼べません。

そうではなく、パワハラを無自覚にしてしまっている管理職を、マネジメントも含めて正しく成果が出せる人間にきちんと育てなおす。これがとても大事です。だからこそ、トップには真剣にパワハラ対策に取り組んでほしいと思っています。

―本日は、ありがとうございました。
 

今回、インタビューを受けてくださった湯澤社会保険労務士事務所様では、本記事で説明のある「パワハラ振り返りシート」導入やパワハラ対策に対するご相談を受けてくださっています。
ご希望の場合は、下記お問い合わせ先まで「LEGALBACKS(リーガルバックス)の記事とみた」とお伝えいただいた上、お問い合わせください。

事務所名 湯澤社会保険労務士事務所
代表・社会保険労務士 湯澤 悟
所在地 〒103-0004 東京都中央区東日本橋3-6-6 さつきビル5階
電話 03-3249-0777
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