ビジネスそのものに極めて高いリスクを孕んでいる法律実務。
たったひとつのミスが致命傷になるこの仕事のリスクを極限までゼロにする方法を高難度業務研究会の菰田泰隆弁護士と横須賀輝尚が徹底討論。ハインリッヒの法則を超える最新の法律実務リスク管理メソッドを初公開。

①手続きや要件のリスクに対して、顧問弁護士はどう役に立つのか

横須賀:申請ベースの仕事と許認可については「期限」がある。期限内に申請するのは当然でも、さまざまな理由で申請が期限直前になってしまうこともある。場合によっては期限を超えてしまうこともあるだろう。
士業自身が期限を超過したことについての正当性を主張していくしかないが、顧問弁護士がいるとより説得力を持って行政に立ち向かえる。

行政の示す期限は、絶対でないことがある

菰田:期限の中には絶対的な期限もあるが、行政担当者の裁量で期限が決まるケースも意外に多い。私も医療法人の手続きをよく行うが、期限が過ぎていても遅延理由書を添付することで受け付けてくれることもある。今回の期限が絶対的なものなのかそうではないのか、もし絶対的なものだとしたら例外がないのか、そういうところは整理をしておく必要がある。
絶対的な期限だとするなら、行政の裁量の余地はない。もし例外的に期限を過ぎての申請が認められるとしても、それは例外の要件を満たした場合に限るので弁護士が出てきて交渉する余地はない。しかし絶対的な要件でない場合、期限は担当者の裁量だったりもする。行政書士や社労士の先生だけ行政に対して交渉するよりも、弁護士が出て法律論を詰めることで結論が変わることがある。

クライアントはどこで士業を信頼するのか

横須賀:行政書士や社労士の多くは申請業務を行っているが、申請期限が過ぎてしまったことに対して食い下がって抗弁せずに「仕方がない」と諦めてしまう人は多い。しかし、実は弁護士から行政に意見書を出すことにより、期日を過ぎていても申請を受け入れさせられることがある。この辺りを把握している弁護士はあまりいないが、わかっている弁護士が顧問にいると期限に関するリスクを抑えられる。

菰田:少なくとも、クライアントに対して「諦めずに抗弁する」という姿勢は見せなければならない。僕はこれまで助成金の申請期日を覆したことがあるが、なんとかして挽回するという経験を持つ弁護士がいると心強い。
もし結果的に覆らなかったにしても、「行政側が受け付けないことがおかしいんだ」ということを、弁護士の意見書までつけて行政に訴えかけた事実はクライアントの目に触れる。クライアントへの信頼度を構築するためにも、そういった対応は必要だ。

士業が正確に申請書類を揃えてしっかりと期限内に提出したとしても、行政がミスすることもある。防ぎようのない行政のミスに対し、いかに対応するかは重要だ。

行政のミスで損をするのはクライアントだ

菰田:公務員という立場からか、担当者が自分のミスを挽回しようとしてスピードアップしてくれることは基本的にない。ミスがあったとしても、そのまま普通のスケジュールで進んでいく。その結果、申請期限に間に合わずに割りを食うのは士業とクライアントだ。

弁護士が出ることで行政に圧力をかけられる

菰田:ここで弁護士の存在をチラつかせることによって「このまま間に合わなかったら、下手したら行政訴訟を起こされかねない」と担当者に思わせられる。訴訟に発展すれば自分の評価が傷つきかねないということを、担当者にリアルに実感させて危機感を与え、対応を急がせる。実際に弁護士が表に立つことで行政のスピード感が変わることは多い。

横須賀:弁護士を表に立たせて行政との交渉を頼むこともできるし、顧問弁護士がいるということを行政に伝えるだけでも一定の効果が見込めるだろう。

行政のミスの他にも、行政の制度に何か変更が起きたときに起きやすいミスもある。例えば過去にも電子申請やCDR、CD-ROMでの申請が可能になったことがあったが、このようなときには、地域によって対応に格差が出やすい。

地域格差は、特に助成金業務に顕著だ

菰田:地域格差が一番出やすいのは、毎年切り替わる助成金だろう。本来ならば全都道府県の労働局が進め方を統一するべきだが、各労働局が勝手に判断してそれぞれに違うやり方をとっているのが現状だ。その結果、適用される法律は同じなのに運用が違うという事態が起きている。各地域にまたがって助成金業務を行う士業は、ある程度の地域のクセを知っておく必要がある。
 また、さまざまなケースで要件の確認が甘かったが故に申請に失敗することが考えられるが、大前提として、法律論として要件を認識できていないことが原因だと感じている。今手がけている手続の要件を厳密にみたときに、どこを満たせばいいのかが曖昧のままになっていないだろうか。

「前回これでいけたから今回も大丈夫」は通用しない

菰田:助成金申請でよく見かけるのが、「前回はこれで通ったから今回も大丈夫だ」「広島では通ったから大阪でも通るだろう」というような認識で手続きをこなしているケースだ。しかし、労働局によって要件の厳しさは大きく異なる。
 私は普段福岡で仕事をしているが、福岡の労働局は他の都道府県と比べて、おそらくかなり要件が厳しい。福岡で通ったものは全国どこでも通るといってもいいほどだ。逆に東京はかなり要件が緩いため、日頃東京で助成金業務を行なっている方は「東京で通ったから他でも通るだろう」と考えると危険だし、そもそも、法律的な要件に照らして考えるという習慣づけを行なって欲しいところだ。

曖昧な要件は弁護士を通じて明確化する

横須賀:要件にもいろいろあるが、「一級建築士の資格を保有していること」など、保有資格が要件として求められるものについては判断がしやすい。しかし、「一定期間の実務経験がある」というような判断が難しい要件もある。そのあたりについては弁護士に相談し、自分の見解に対して「それで間違いないだろう」と言ってもらえるのは心強い。万が一行政からダメだと言われても、弁護士の解釈を根拠に反論できる。

横須賀:ネットが普及して、自分の商圏に限らず、全国からクライアントを得ることができるようになり、遠方のクライアントと会わずに業務を終わらせることが増えた。しかし一方で、本人確認のリスクも高まっている。悪意を持って本人であると偽って士業に依頼してくるケースはごく一部かもしれないが、悪意を持って接触してくる人を近寄らせないようにするために、顧問弁護士がいるという表記は非常に役立つ。

司法書士や行政書士は特に注意したい

菰田:遠方のクライアントであっても、契約書の作成などの単なる書類作成であればさほどリスクは高くない。万が一依頼者が契約する本人ではなかったとしても、単に契約書を作っただけに過ぎないからだ。しかも本人にしか使えない契約書であれば、悪用される危険性はほとんどないといっていい。
 しかし、司法書士のように登記手続きを行う士業の場合、クライアントが万が一本人ではなかったとしたら、人の所有権を奪いかねない。重大な事故を防ぐためには十分な本人確認が必要だ。行政書士の許認可に関しても同様のリスクが生じる。

書士会規則の解釈で迷ったときは弁護士に相談する

菰田:書士会ごとに本人確認の規則があるが、その規則が求めているレベルについてもしっかり把握しておく必要がある。規則に書かれている要件は明確ではなく、抽象的に書かれていることが多い。そうすると、「今回の事案ではどこまで本人確認をしたら規則を守ったことになるのか?」という解釈論が必要になる。こういった本人確認の規則の解釈についても、弁護士に相談することでリスクを回避できる。

クライアントが出してくる資料が必ずしも正しいとは限らない。この真偽の確認についてもリスクが生じる場面だ。

弁護士のアンテナを利用する

菰田:弁護士は証拠の確認能力に関して他士業の追随を許さない。日々訴訟の証拠関係でこういう資料を扱っているため、「こういう資料ならば普通はこの情報が載っているだろう」というアンテナが他士業よりも圧倒的に立つからだ。
 クライアントが持ってきた資料に少し不安を感じているのなら弁護士に相談してほしい。実際にクライアントが提出してきた書面を見せてもらえれば、弁護士が感じた違和感を伝えられる。「普通だったらこういう情報が載っているはずなのに、この書類には載っていない。何かおかしいかもしれない」という違和感は、資料が偽造かもしれないというシーンではとても頼りになるだろう。

「顧問弁護士」の表記で牽制する

横須賀:また、入管における偽造結婚など、違法な手段を使って利益を得ようとする人が接触してくることもある。そういった相手に対しても、顧問弁護士がいる事務所だと伝えることで相手を牽制し、接触を避けることができる。

横須賀:弁護士の存在をチラつかせることによってリスクを回避できるもう一つの例が債権回収リスクだ。業務を遂行したのにクライアントが報酬を払わないというケースにおいても、弁護士の存在は大いに役立つ。

債権回収を甘くみてはいけない

菰田:債権回収は難しい。クライアントの資金力がなければ、債権回収はほぼ不可能だ。特に小口の債権を回収するのは至難の技だといわれる。ただ、弁護士が出てくることで訴訟がリアルに債務者の目前に迫り、それによって債務者の意識が変わることがある。訴訟になることを避けたい一心でなんとかして資金をかき集めて返済してくる債務者は多い。弁護士の存在感を示すだけでもかなり役立つ場面だ。

顧問弁護士の表記は無言の圧力になる

横須賀:最初の契約の時点で、支払いに関する事務所の方針として「支払いしない方には弁護士が報酬の請求をすることがある」ということを伝えておくのも有効だ。直接クライアントに伝えにくければ、事務所案内に書いておくだけでも相当な抑止力になるだろう。LEGALMAGICの会員からも、単に顧問弁護士として表示するだけでクライアントが意識し、抑止力が働いているという声を実際に聞いている。

横須賀:業務リスクの中でも割と初歩的なリスクだが、失念してしまうというリスクも無視できない。士業の場合、どうしても自分がやる仕事の量が多い。そこで、どんなに注意していても漏れてしまうタスクが出てきてしまう。これに関しては、自分なりのスケジュール方法を見つけるしかないだろう。自分のタスク管理のために他の士業がどんな工夫をしているのかというところは参考になる。

「忘れる」環境自体を排除する

菰田:僕は、どうでもいいことまで全てタスクに放り込んで管理するようにしている。例えば領収書をスーツのポケットに入れたままで帰り道に気がつき「ポケットの領収書を領収書の棚に入れる」とか、そんなところまでタスクに入れている。そうするとタスクが常に300から400近く溜まってくるが、そこに一元化してしまえば、あとはそのタスクにあるものだけを消化すればよい。
 「何か忘れていないか」と思い出す作業も必要なく、ただタスクを追いかけるだけで済む。「忘れる」ということから解放されるこういった方法も有効だ。

横須賀:情報が早くて法律改正や書式の変更になかなかついていけない人もいるかもしれない。法改正や書式変更に関しても業務上のリスクがある。もちろん自己の専門分野に関しては頑張ってついていくしかないところだが、ここでも顧問弁護士が役立つ場面はあるだろうか。

頼れるネットワークが何より重要

菰田:どの士業であっても、世の中で起きる法改正や手続きの変更について全部フォローするのは不可能だ。ここは、詳しい人を身の回りにどれだけ作れるかだと考える。私も自分の周囲に専門家を揃えている。そういう意味では、顧問弁護士としてというよりも、ネットワークをちゃんと持った人が必要ということになる。もし身近にそういった専門家が揃っていないのであれば、まずはLEGALMAGICで私に相談してもらうことで、私の人脈を使って解決に向かうことができる。

菰田:ミスがないのはプロの仕事として大前提だが、人間がする仕事なのでどうしてもミスは出てしまうものだ。菰田総合法律事務所では、作成した弁護士が出来上がったものをまず自分で数回読み返し、そこで誤字脱字がないことまで確認する。その後、心配であれば担当事務員にもチェックを頼み、その上で最終的に責任者である私のところに上がってくる。しかし、それでもミスがたまに出ることがある。自分だけではなく他人の目を通した方がミスは見つかりやすい。

自分のクセには気づけない

菰田:他の先生の書類のチェックをしていると、その人によって書きかたの癖があるのがわかる。例えば、合意書に毎回清算条項が入ってないとか、支払い期限が明記されていないとか。清算条項は必ず入れなければならないものではないが、清算条項がなければ事が終わったことがわからない。そのため、これはあえて入れていないというよりも、作成している先生の癖だろうと思われる。

真のプロは契約書添削サービスをこう使っている

横須賀:他人の目を通して書類のチェックをしてもらうことでリスクを防ぐことにも繋がるだろう。実際にLEGALMAGICの会員の中にも、作成した契約書に自信がないからではなく、「弁護士の目を通して契約書をチェックしてもらうことで自分のクセに気づく」ことを目的として契約書チェックのサービスを利用している方がいる。

菰田:そうすることで、自分の書類の作成能力がどのレベルなのかを客観的に判断できる。自分が作った合意書や契約書を顧問弁護士にたまにチェックしてもらうというのはいい方法だ。たまにそういった機会を作ることで、自分の悪いクセが共通項としてあぶり出される。
不思議なことだが、同じ事務所のスタッフにチェックをしてもらっていても問題が見つからないのに、他の事務所から見るとミスが一目瞭然のこともあったりする。中にいると気づかないことも多いのだ。

リスクが高い創作性の高い契約書・念書の作成業務

菰田:士業には創作性の高い契約書等を作る機会がある。本来ならば弁護士の仕事なのかもしれないが、他士業の先生方のところに話がくることは多い。
 創作性の高い契約書作成に関しては、「契約書作成」という、法律を作る側の勉強をしたことがないとどうにもならない。見よう見まねで書式から引っ張ってくるだけでは不十分で、その条項が今作成している契約書に本当に当てはまるのかどうかがわからないと判断がつけられない。創作性の高い契約書や念書の作成に関しては、特に弁護士のチェックを入れて欲しい。

横須賀:特に弁護士法との関連で問題になりやすい「業際問題」だが、行政書士の一番の業際リスクはやはり代理人業務との関連にある。良くも悪くも行政書士の業務分野は昔と比べてもずいぶん広がってきているため、他の士業の独占業務と被りがちなところも増えている。

菰田:中でも行政書士の場合は、離婚や相続、ネット上の削除請求などの業務に関連して、代理人業務に近しいことをされている先生が意外に多い。例えば担当するのは内容証明の作成までなのか、その後も関与してしまっているのか。そういった「どこまで関わるのか」で業際問題に発展しているケースをよく見かけるので、どこまでやると代理人業務になってしまうのかを認識しておくといい。

業際ラインを自分で判断するのは危険

横須賀:どこまでが代理人業務にあたらないかというボーダーラインは、絶対的に線引きできるわけではなく、個別ケースで変わる。危険な線に踏み込まなければいいという話ではあるが、案件によっては、線引きをするということが無責任になってしまうためにかなり踏みこまざるを得ないシーンもあるだろう。
 実際に「こういう事案でどこまで踏み込んだらまずいですか」というラインについての相談は多い。また、行政書士の場合は登記との関連も注意しておきたいところだ。行政書士も司法書士も会社設立業務を行うが、行政書士が会社設立をするときに司法書士が関与しないということはありえない。時に行政書士だけで会社設立業務を完結させている士業を見かけることがあるが、そのところは曖昧にしない方がいいだろう。

横須賀:特に弁護士法との関連で問題になりやすい「業際問題」だが、行政書士の一番の業際リスクはやはり代理人業務との関連にある。良くも悪くも行政書士の業務分野は昔と比べてもずいぶん広がってきているため、他の士業の独占業務と被りがちなところも増えている。

菰田:中でも行政書士の場合は、離婚や相続、ネット上の削除請求などの業務に関連して、代理人業務に近しいことをされている先生が意外に多い。例えば担当するのは内容証明の作成までなのか、その後も関与してしまっているのか。そういった「どこまで関わるのか」で業際問題に発展しているケースをよく見かけるので、どこまでやると代理人業務になってしまうのかを認識しておくといい。

業際ラインを自分で判断するのは危険

横須賀:どこまでが代理人業務にあたらないかというボーダーラインは、絶対的に線引きできるわけではなく、個別ケースで変わる。危険な線に踏み込まなければいいという話ではあるが、案件によっては、線引きをするということが無責任になってしまうためにかなり踏みこまざるを得ないシーンもあるだろう。
 実際に「こういう事案でどこまで踏み込んだらまずいですか」というラインについての相談は多い。また、行政書士の場合は登記との関連も注意しておきたいところだ。行政書士も司法書士も会社設立業務を行うが、行政書士が会社設立をするときに司法書士が関与しないということはありえない。時に行政書士だけで会社設立業務を完結させている士業を見かけることがあるが、そのところは曖昧にしない方がいいだろう。

菰田:司法書士は、自分たちの業務が確立されている部分が大きい。特に登記に特化している場合、業際の問題は起きない。もし業際が問題になるとすれば、債務整理系と代理人業務だろう。
 簡易裁判所の代理権を有する司法書士であれば、140万円までは弁護士と同じ業務ができる。しかし、知らないうちに140万円というラインを超えてしまっているケースは多い。実は本人が隠していたとか、蓋を開けてみたら2、300万の債権があって実は手を出してはいけない案件だったということもある。

横須賀:これは私の経験則だが、税理士の多くは顧問先の企業から業際を超える業務について無理強いさせられているところがあるように感じている。会社の役員変更登記や増資なども、クライアントから気軽に依頼されるケースは多い。
 クライアントと仲がいい間はいいが、万が一決裂してしまったときに「業際を超えて業務を行った」という違法な証拠を握られているのは怖い。

菰田:法律問題についても、クライアントから顧問の税理士に質問がいって、よくわからない回答で終わっていることがある。税理士側からすれば、他士業の業務が大量に発生するのであれば事務所内部で専門にスタッフを育ててもペイできるだろうが、年間に1、2回しかないような申請のために高額の費用をかけて人を育てるのは現実的ではない。少しでも不安に感じたら弁護士に相談し、アドバイスを仰ぐことをお勧めする。

菰田:社労士の業際問題としては、労務紛争で従業員に対して交渉を行うことで非弁行為になる可能性がある。退職勧奨をするところまでは問題ないだろうが、「退職に応じる代わりに解決金を払ってほしい」というような話になったときに、金額の交渉までしてしまうと示談交渉となり、非弁行為なので注意が必要だ。
 また、単純な給与計算に加えて年末調整まで社労士の先生がしていることがあるが、これも取得税の計算であって、税理士との間の業際に抵触する。
 そのあたりの微妙なところは、自分の身を守るためにしっかり線引きをするべきだ。厳密にわからないところは弁護士に聞いて、自分の場所は確保する必要がある。

横須賀:基本的には高難度業務というとB to Bがメインになると思われるが、気づきにくい会社のリスクにはどのようなものがあるだろうか。例えば、商標、特許、知財に関するものはどうか。社名をつけるとき、すでに商標登録されている名前を使ってしまうと大変な事になる。弁理士はともかく、他の士業は自分の専門でないため、なかなかこういったことには気づきにくい。

商標に関するアドバイスができると、一歩抜きん出る

菰田:クライアントのサービス面に関して、商標を意識していない士業は多い。ここでは「商標を取っておいた方がいい」というアドバイスができるだけでもいいだろう。商標を取っておかなければ、万が一他に取られてしまったときにサービスが使えなくなるかもしれない。特許も同じだが、そういう指摘もできるとよい。

節税のアドバイスを提案しない税理士

横須賀:税金の支払に関しては税理士が専門だが、節税についても税理士が適切なアドバイスをくれるだろうとクライアントは期待するものだ。そこで、税理士にとっては節税をしないリスクというよりも、アドバイスをしないリスクというものがあるように思う。提案してミスが起きてしまうと自分の責任になるため、提案しない税理士もいる。しかし総じて経営者の方が情報に敏感だ。金融機関から情報を仕入れる機会も多い。もしも経営者が先に他から節税に関する情報を仕入れてしまったら、税理士の信頼が揺らぎかねない。

菰田:税理士の認識と一般的なビジネスマンや経営者の認識が少し違うのかもしれないが、クライアントからすれば、税理士をつけている以上は節税のアドバイスもしてくれると思っている。しかし税理士側からすれば、自分たちは節税させる職業ではなく、適正な税務を行うサポートをする仕事だと考えている。この部分に関する不一致が大きいように思う。
 顧問契約を結ぶときには、この部分をきっちり説明しておきたい。また、節税関連の商品は世の中に数多く出回っている。それをクライアントに勧めるかどうかは別問題としても、知っておくのはいいことだ。

退職リスクよりまず「採用リスク」を考えよ

菰田:労務に関わっていて一番気になることが、従業員が退職する場面ばかりフォーカスされて採用の場面があまりフォーカスされないこと。どうやったら採用力を上げられるのかということも重要だ。
 採用するときに既に不満があって、その従業員に退職勧奨するとか解雇するとかいった相談も多いが、辞める場面にそうなるということは、採用するときに精査ができていないということだ。そうならないためにも、その会社の価値観なども踏まえた上でどういう採用のプロセスを取っていくのかというような採用の部分についてしっかり整えていくべきだ。そうすることで、結局退職率も下がって退職関連の問題も減っていくのではないだろうか。

クライアントのリスクは士業のリスクである

 企業は事業承継だったり資金繰りだったりと、いろんなリスクを抱えている。士業が自分の領域だけしか見えておらず、社労士なら労務、行政書士なら許認可、税理士なら税務だけとなってしまうと、他で問題が起きたときに対応できない。
 結局その企業が継続していかないと自分の顧問や仕事はなくなってしまうのだ。だからいろんなところに気づくべきだし、問題を解決できる弁護士を身近に置いておくことはとても重要なことだと思う。

横須賀:ミスが起きてしまう前に、なにかミスが起こりそうだなとか、これはまずいんじゃないか、ということに気づくことがあるだろう。そういった違和感に早く気付ければ気付けるほどリスクは防げる。

間違ったクライアントファーストは誰も幸せにしない

菰田:自分の考えよりもクライアントの希望を無条件に優先してしまい、「何がクライアントにとって最善なのか」という意識が抜け落ちてしまっている士業がたまにいる。ここは、いろいろな先生方の相談を聞いていて一番違和感を感じるところでもある。言い方は厳しいが、「クライアントの言いなりになってしまっていないか」「単なるお遣いになってしまっていないか」という視点と、「何がクライアントにとって最善なのか」という視点は忘れて欲しくない。この視点を忘れてしまうと、歪みが生じる。
 もしも「なぜそうしたほうがいいと思うのか」と問いかけられたときに「クライアントがそうしたいと言っているから」という回答が自分の中から出てきたら、いいなりになってしまっていないかを考え直すチャンスだ。
 「なぜそうしたいのか」というなぜの根拠を突き詰めることで、歪みが消えていく。

クライアントのその話は真実なのか

横須賀:そもそも、クライアントが全てを話しているとは実は限らない。ここに違和感の原因があることが多い。中には全てを話していないだけではなく、一部誤ったことを士業に対して伝えていることもある。その違和感をいかにして突き止められるようになるかは、経験値としか言いようがない。ただ、ここでも弁護士が役立つ場面は多い。

菰田:弁護士は長い時間いろいろな人の相談を聞き、言い分の違う2人の戦いをサポートし続けるのが仕事だ。だから、「ひずみを見つける」というのは弁護士の主戦場だ。クライアントの話に関して違和感を感じることがあったなら、顧問弁護士に相談することでひずみを見つけるきっかけにしてもらいたい。

横須賀:士業の一つのリスクとして「相談リスク」も見過ごせない。例えばクライアントから「この助成金は取れるか」と聞かれ、「取れる」と答えたにもかかわらず助成金が認められなかったときなど、士業の回答に基づいて行動したのに失敗したとして責められるケースは少なくない。
 その辺は士業固有の実力と回答力に大きく左右されるところではあるが、クライアントに対して回答したことで自分のリスクを軽減するために、顧問弁護士の意見を合わせてつけておきたい。

間違った使い方をすれば反発を強めかねない

菰田:先が見えないことを回答して回答通りにならないことは多い。このときに弁護士の意見をつければ、クライアントとしては確かに安心するだろう。しかし、弁護士の意見までつけた上でなおクライアントにとって満足のいく結果が得られなかったら、士業に対するクライアントの反発もより強くなってしまう。
 そのため、どちらかというと「できる」という積極的な回答に弁護士の意見をつけるというよりも、「できない」という消極的な回答にきちんと弁護士の意見をつけてもらうというのが安心だろう。

弁護士の意見をクライアントを説得する材料として使う

横須賀:「これはちょっと厳しいかな」と思う案件に関しては、「顧問弁護士にも確認したが、顧問弁護士も少し厳しいという意見だった」とクライアントに伝えることで、クライアントにとってマイナスな意見を言っているのが自分1人ではないと暗に伝えることができる。
 弁護士も同じ意見だ、というのは、できることの後押しだけではなく、できないことの後押しもできるということだ。なかなか納得してもらえないクライアントに対して、顧問弁護士も同じ意見を出しているというバックボーンを作ることで、弁護士も同じ意見ですと伝えることによって納得させやすくなる。

横須賀:士業として仕事を受けていると、士業の方向性にクライアントが従ってくれないケースが出てくる。例えば、税理士として確定申告の業務を受注したとする。結果的に納税の必要が出たが、クライアントが納税を拒否した。納税を拒否したために延滞税が発生した場合、クライアントから「士業がしっかり対応してくれなかったからだ」と責められることがある。こういったことは契約内容が明確であれば起きないはずだ。
 このような「士業の責任とはかけ離れたところで起きること」のリスクを防ぐためにも、線引きをしっかりした契約を結ぶべきだが、意外に単発契約の場合は契約書を結んでいない人が多い。

誰が何を行うのかを曖昧にすることはリスクである

菰田:士業がクライアントから仕事を受けるとき、クライアント側に作業が発生しないことはほとんどない。大抵は、資料の準備や整理などの何かしらの作業がクライアントにも生じる。重要なのは、クライアントがするべきタスクと士業のするべきことが何かということをしっかりと明確にしておくことと、どのタイミングからどういうスケジュールで進めていくかをしっかりと決めておくことだ。
 そうすることで、責任の所在が明確になりやすい。それに、線引きをしておくことで、報酬額に見合わない作業量になることを防ぐ効果もある。

横須賀:法律の仕事を扱う士業には、いつでも損害賠償請求のリスクがある。そのためにほとんどの士業が損害賠償保険に入っているが、損害賠償保険に入っていたからといって安心はできない。実は損害賠償保険は、一般に想像しているよりもはるかに要件が厳しい。
 損害賠償保険の適用になるためには、士業が悪かったと断定できなければならない。しかし、完全に士業にのみ非があるケースはそう多くはない。

損害賠償保険には専門的な審査がある

菰田:保険の適用になるかどうかを審査する審査会は弁護士や社労士などの士業で形成されている。そして損害賠償保険を使いたい場合、申請についてその審査会で審議されることになる。
 例えば社労士の場合、助成金申請の期限を超過して助成金が出ずにクライアントに損害を与えるケースがあるが、士業が100%悪いのか、クライアントにも責任はないのかといったことを審査会で議論し、士業に100%の過失が認められて初めて損害賠償保険のテーブルに乗ることになるのだ。
 一番やりにくいのは、士業自身が損害賠償保険を申請して一人で対応するケースだろう。士業としては、クライアントに迷惑をかけたくないから保険を使いたい。しかし保険を使うためには、保険会社に対して自分に100%非があるということを主張しなければならない。
自分で自分の非を主張するのはかなり難しい

菰田:そもそも最初からミスろうとは思っていないし、クライアントからの資料提出が遅かったから申請期限に間に合わなかったというように、自分には非がない部分が理由となって結果が生じていることが何かあるはずだ。そこを押し殺して、自分だけが100%悪かったんだということを保険会社に主張し続けるのは簡単ではない。
 そこで、弁護士としてクライアントの先生から依頼されて保険会社との間に入ることもある。法律論で「こういう事実経過だから士業の先生に明らかに過失がある事案だ」という意見書をまとめ、保険会社に説明する。
 よく見かけるのが、3月末期限の助成金を3月半ばに引き受けるようなケースだ。そこから資料集種などを始めたら、実質的に士業が作業できる日は2、3日くらいしかない。普通の社労士ならばそんなタイミングで引き受けないし、そんな短期間で助成金申請が済むはずもない。そうすると、「これは引き受ける当初から助成金申請が成り立たず、どちらにしろ間に合わなかった事案ではないか」という話になってしまう。
横須賀:保険会社も保険を払わない方向のスタンスで話をしてくるため、賠償保険さえ入っておけば万全だというわけではない。まずはここを理解することが必要だ。

菰田泰隆

弁護士法人菰田総合法律事務所代表弁護士。税理士・社会保険労務士資格も併せ持つ。九州大学法学部卒、早稲田大学大学院卒。大学院卒業後、司法試験に合格。2013年、弁護士登録と同時に菰田法律事務所を開設し、独立。2014年、顧客急増により事務所開設1年で法人化し、2拠点展開。開業当初より相続等の家事事件に注力し、2016年、遺産分割だけでなく相続登記・相続税申告まで対応するワンストップ体制を構築。2017年、紛争性のない相続や認知症対策のための家族信託にも注力し、株式会社相続の窓口取締役に就任、一般社団法人民事信託協会理事に就任することで、あらゆる相続ニーズに応える体制を構築。また一方で、2016年、社会保険労務士事務所を開設し、クライアントの顧問社労士兼顧問弁護士として、社労士のみ弁護士のみでは提供できない高品質の労務管理コンサルティングを提供開始。2017年、企業のニーズに応えるため、今までにない顧問弁護士形態『フレックス顧問契約』、労務管理体制のトータルリーガルチェック『無料労務チェック』を開始。「弁護士の枠を超えた新しい価値の提供」を理念に、他の事務所ではできないサービス提供を続ける。

横須賀輝尚

WORKtheMAGICON行政書士法人 代表社員 特定行政書士
パワーコンテンツジャパン株式会社 代表取締役
埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部卒。大学在学中に行政書士試験に合格。2003年、23歳のときに東京都行政書士会に行政書士登録し(当時は最年少登録)、行政書士横須賀輝尚事務所を東京都調布市にて開業した。開業初年度から、各種の民事法務、許認可、会社設立等を手がけ、会社設立のエキスパートとなる。2011年から、コンサルティングビジネスに専念するため、いったん行政書士としての活動を休止。2015年に特定行政書士試験に合格。2016年、4月のWORKtheMAGICON行政書士法人を設立した。

そのほか、著作は法律実務、経営に関するものなど監修含め、20冊を超える。法律実務書としては「株式会社はじめての設立&かんたん登記」(技術評論社)が3万部を超えるベストセラーとなっており、株式会社関連実務本では日本一の発行部数を誇る。シリーズとして、「合同会社はじめての設立&かんたん登記」、「有限会社を株式会社に かんたん変更&移行の手続き」(すべて技術評論社)等がある。

Special skill:高難度法務対応起案、創作性の高い書類作成。新法施行時の新ビジネス考案などが強み。法律だけでなく、インターネットマーケティング、セミナー、執筆等も得意分野。

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